2014/01/15
脳みそを上滑りすることば
昔、『千円札は拾うな』という本に「努力は報われない」と書いてひんしゅくを買ったことがあります。なぜそんなにもへそ曲がりなのだとか、努力をバカにするのはよくないとか、いろいろ言われました。ちょっと言葉足らずだったみたいです。私が言いたかったのは「間違った努力は報われない」ということ。つまり「正しい努力は報われる」ということでもあります。それなら最初からそう言えよという声が聞こえてきそうです。でもそれでは意味がない。私はわざと言葉足らずに書いているのです。でもそれは私の性格がひねくれているからではありません。ことばが読者の脳みそに引っかかるようにしているのです。もしも「正しい努力は報われる」と書いたとしましょう。読者は全員「そりゃそうだ」と思うはずです。だって正論ですからね。きっと私に対する批判も起きなかったでしょう。でもこの言葉は読者の記憶には残りません。10人が10人とも「そりゃそうだ」と思う言葉は脳みそを上滑りしてしまうからです。「努力は報われない」という書き方は確かに反発を生みます。努力は無駄じゃないとみんな信じているからです。だからこそ「え?なぜ?」という疑問が湧く。疑問は脳みそに気持ち悪く引っかかる。結果、間違った努力には意味がないということが記憶に刻まれるのです。