2014/05/14
何かを取れば何かを失う
私はナイフを集めるのが趣味で20本くらいを持っています。知らない人が見たら危ないやつに見えちゃいます。でも、ナイフは私にとっては絵画みたいなものなのです。私の集めるナイフはカスタムナイフと呼ばれるもので、職人さんが何ヶ月もかけて1本のナイフを仕上げていくのです。私が好きなのは使うことを前提に無駄を削ぎ落したシンプルな作りのナイフです。シンプルであるが故に奥が深い。ナイフなんて所詮は刃先とグリップの組み合わせに過ぎません。でもその形状や硬さや切れ味は1本1本違うのです。グリップを握りしめ、刃先を眺めていると、職人さんのこだわりがひしひしと伝わってきます。なぜそのような形をしているのか、なぜそのような仕上げをしているのか、そこにはちゃんと意味があるのです。ナイフの刃は硬ければ硬いほど良く切れます。そして薄ければ薄いほど良く切れます。世界で一番切れる刃物はカミソリの刃です。恐ろしく硬く、恐ろしく薄い。でももろい。硬くて薄い刃は一瞬よく切れるのですが、その切れ味は長持ちしない。さらには力を加えると簡単に折れてしまいます。刃が薄いことによるメリットとデメリット。刃が硬いことによるメリットとデメリット。何かを取れば何かを失う。職人さんがナイフを作る度に感じるそのジレンマは、人生におけるジレンマとよく似ているとは思いませんか。